●実録?小説「天までとどけ」③
紫のシルエットを描く丹沢から奥多摩にかけての山なみに、線香花火の赤い玉のような夕日が吸いこまれると、辺りは急に、うそ寒い夕暮れに包まれる。
(冬の夕暮れは、どうしてこんなに短いんだろう)
訳もなくそんなことを考えながら、僕はロケット発射試験場に立っていた。
空を見上げる。東の空高くには10日月が昇っており、すっかり定着した冬型の気圧配置に洗われたように、その輝きは眩しいほど白く明るい。月明かりと、まだ僅かに残っている薄明の空に、カペラの輝きだけが針で突いたように白く、鋭くきらめき始めている。
手に持っていたロケットを、発射台に据えつけた。全長50cm、これまでで最大のロケットだった。機体に月明かりが映えて、白いボール紙製のロケットは、いっそう白く鋭く尖って見える。この1週間、部屋に閉じこもりきりで作った、それまでの技術とノウハウを結集した大型ロケットだった。
(清水と河相がいればな)
そう思う。清水は、サッカーの試合を控えて練習に余念がない。河相は早くも高校受験のための塾に通い始め、勉強が忙しくなっていた。
発射台に載せたロケットを点検し、最後の調整をする。ベストブレンドの火薬を詰めこんだその機体は、ずしりと重い。
このロケットの製作に、清水と河相はいっさい関わっていなかった。彼らが、サッカーや勉強に注いだのと同じ時間と努力を、僕はこのロケットに傾けたのだった。
発射台に作ったガイドに沿って、導火線をまっすぐに伸ばす。導火線が曲っていると、途中で火が消えてしまうことがあるのだ。
(よし)
大きく深呼吸をした。
マッチを擦る。うす闇のなかに灯った小さな火が、驚くほど明るい。
導火線が燃えるかすかな音が、やがてノズルの内部へと吸いこまれ、ほんのひととき、静けさが満ちた。
(失敗か?)
そう思った直後。
ロケットのノズルから吐き出された炎の眩しさに、僕は目をしばたいた。
(上がれ。上がるんだ!)
ノズルから吐き出されるまっ白な炎を見つめ、僕はただそれだけを念じ・・・。
次の瞬間、すさまじい速度で紫の夕空へと舞い上がった僕のロケットは、ますます白い輝きを増し始めていた10日月に吸い込まれるように見えなくなっていた。焼け焦げた発射台と、月明りの空にまっ白に残る煙を見なければ、この1週間、何もかも忘れて作りあげたロケットが、初めからこの世に存在しなかったのではないかと思えるほど、それは一瞬のできごとだった。
ロケットが消えた空を、僕はいつまでも見上げていた。
月明りの夜空に、次第に星の数が増えてくる。
ロケットは、落ちてこなかった。
てのひらに残っている、ロケットの重さと冷たさを確かめるようにぎゅっと拳を握り、僕は12月の風の中に立ち尽くしていた。(おわり)
☆ノンフィクション度90%のロケットボーイ小説、いかがでしたか。
清水も河相も実在の人物です(敬称略ですみません)。
特に天文界で活躍している清水は、ご存知の方もいるのではないかと・・・。
彼らは、当時のことを覚えているかな。
東大和天文同好会からは、今日の天文界を担うアマチュア天文家多数を輩出しています。
なんとも奇抜で異常でヘンタイで面白い同好会でした。
天文雑誌写真コンテスト入選常連のY会長のもと、創立37年が過ぎた今も続いていますよ。

コメント
『武蔵野ロケットボーイズ』、楽しく読ませていただきました。そのまんま映画「遠い空の向こうに」ですね。女性が出てこないのがある意味リアル。
同じようなことを考える人たちはどこにもいるようで、こんなのもどうぞ。宇宙先端活動研究会の「おもちゃを科学する- ロケット花火(玩具煙火)の性能について -」
http://mimas.web.infoseek.co.jp/sentan/papers/omocha/omocha.htm
Posted by: おおの | 2010年06月16日 00:09
おおのさん、こんにちは。
「女性が出てこない・・・」
そうなんです。
ロケットボーイズ系の小説って必ず女性が出てきますが、当時の私たちは、こと天文関係に関して女性とのお付き合いはゼロでした。
観測もロケット研究もすべて男子だけ!思えば当時は硬派だった・・・(笑)
宇宙先端科学研究会のweb、見せていただきました。
当時の私たちも、経験則だけじゃなくて数値化して考えることができればもう少しは進歩したんじゃないかと思うんですが・・・中1では仕方ないですね。
Posted by: まっちゃん | 2010年06月16日 08:35