2010年06月12日

●実録?小説「天までとどけ」①

中学生の頃、手製のロケット研究に没頭した時期がありました。
その頃のことを書いた小説が出てきましたので、3回に分けて掲載します。
火遊び、ではありますが、もう時効だと思いますので・・・。

  ☆  ☆  ☆ 

 始まりは些細なできごとだった。
 9月の終わり、僕の家のベランダで湿気てしまった花火をバラして遊んでいた僕たちは、子供なら大抵そうするように、ほぐした火薬にマッチの火を近づけ火遊びを始めたのだ。
 花火に巻いてある色とりどりの紙をはがしていくと、やがて火薬がこぼれ出てくる。中に入っているのは銀色をした火薬で、ちょっと目には細かい砂鉄のような感じだった。
 マッチの火を近づけると、パチパチと勢い良く爆ぜる。さすがに火薬だけあって結構な迫力だ。
 それを見ていた清水が、自信ありげに言った。
「この火薬をさ、軽くて丈夫な筒に詰めたらロケットができるぜ」
 清水はサッカー部に入っている。やや押しが強い性格だが、それだけに行動も判断力もしっかりしていて頼りがいがある清水の言葉には真実味があった。
「ロケットか。かっこいいじゃん。やろう、やろう」
 河相が身を乗り出した。一見、ヌーボーとしているが秀才である。中学に入ってすぐの学力テストでも、学年で3位につけている。
 清水はノートの切れ端をくるくる丸め、セロテープで補強して即席のロケットを作った。長さ5センチほどのミニロケットである。その中に火薬を詰め、爆竹から引っこ抜いた導火線を突っこんでみると、なかなか格好がいい。いかにも勢い良く上がりそうだ。
 僕たちはできあがったロケットを持って近くの空地へ行き、いつかテレビで見た発射シーンを真似て、落ちていた板切れでやや傾いた発射台を作り、胸をドキドキさせながら導火線に火をつけた。
 導火線が燃え尽き、やがてロケットの下部から青白い炎が勢い良く噴き出しはじめる。
 それは本当にテレビで見たロケット打ち上げシーンとそっくりで、その即席ロケットが火柱をひいて空高く上昇する姿を、ためらいなく僕たちに予感させた。
 ところが、だ。ロケットは火を噴いているばかりで少しも飛び上がる気配を見せない。それどころか、巻いた紙がノズル部分から燃え始め、数秒後、ロケットは完全に黒こげになって燃え尽きてしまったのだ。
「ダメじゃんかよ」
 思わず強い口調で僕は毒づいてしまった。自信家の清水も、さすがにこたえたらしく何も言わない。
「機体を紙で作ったことに問題があるんじゃないかな」
 河相は、さすがに冷静で、すでに失敗の分析を始めている。
「でも、もう花火がないぜ。もう一回やろうにも、夏以外は花火なんて売ってないだろ」
 僕は言った。
 清水は何も言わない。こんなとき、もう一言、何か言ったら怒り出すに決まっているから、僕もそれ以上は黙りこんでしまう。
 思わぬ失敗に言葉もなく、いじけた気持ちのまま、枯れ草を集めて小さな焚き火を始めたとき。
 いきなり、焚き火の中から小さな蛇のようなものがシュルシュルと回転しながら、すさまじい勢いで飛び出してきて、僕たちは思わず飛びのいた。
「導火線だ。爆竹の導火線に火がついたんだ」
 その正体にすぐ気づいたのは河相だった。
「それにしてもすごい勢いだったぜ。ねずみ花火みたいだったよ」
 僕の言葉に、
「そうか、わかったぞ。ちょっとそれ、貸してくれ」
 清水は、僕が持っていた何本かの導火線を手の中でほぐし始めた。
「これだ。ほら、導火線の中に入っている火薬、色が黒いだろ。花火に入っていたのは銀色だったよな。きっと火薬の種類が違うんだよ。この黒い火薬を使えば、きっとロケットは上がると思うよ」
 河相がうなずいた。
「聞いたことがある。これはきっと黒色火薬だ。昔は本物の爆弾にも使っていたらしい」
 目を開かれた思いだった。
 もう一度実験してみた。道路に爆竹の導火線を置き、一端に火をつける。
 と、やはりねずみ花火のように火を噴きながら、導火線は激しくのたくった。
 それからだった。僕たち3人のロケット研究が始まったのは。(つづく)