●初めて土星を見た夜
少し遅い時間帯には土星が見ごろになってきました。
昨年夏の環消失から半年が過ぎ、だいぶ環が開いてそれらしい姿になってきています。
観望会でも一番人気の土星、初めて見たのは小学6年生の頃でした。
口径60mmの屈折経緯台をようやく入手したものの、頼りになるのは星座早見板一枚のみ、どこにどんな星座や天体があるのかは、まだよくわかっていませんでした。
とにかく目についた明るい星を手当たり次第に見ていたわけですが、宵の空に見えていた木星と金星以外はどれも点像に見えるだけ、星雲・星団はいくら探しても見えず、天体望遠鏡を購入した初心者誰もが一度は陥る「月と明るい惑星しか探せない」状態となっていました。
そんなある晩、ふと真夜中に目が覚めました。
外に出てみると一面の星空です。
もちろん東京の空ですから満天の星というわけにはいきませんが、ふだん見慣れた宵の空と違い、夜半過ぎの夜空は綺麗に澄んで、星の輝きがまったく違って感じられました。
何といっても小学生ですから、いつもならば完全に夢の中をさまよっている時間帯です。
でも、その晩は不思議に眠さを感じず、ふだんは面倒なはずの望遠鏡のセッティングも苦になりませんでした。
家の前の道に望遠鏡を組み立てた私は、すぐに天頂近くに輝く黄色っぽい星にレンズを向けました。
なぜかその星が自分を呼んでいるような気がしたのです。
その星の名前などもちろん知らなかった私は、視野に入ってきた姿を見て思わず声をあげてしまいました。
米粒のように小さいけれど、確かに環を持つ黄土色の星。
有頂天になった私は、家族全員を起こして土星を見せました。
時刻は午前2時過ぎ。
そんな時刻に叩き起こされれば誰でも怒りそうなものですが、不思議に家族の誰も怒ったり不機嫌になることなく、何度も交替しながら小さな土星の姿を食い入るように眺めました。
初めて見る土星の姿にも感動しましたが、それ以上に心に刻み込んだのは、ふだんと違う星空を見たければ、宵空だけでなく夜半過ぎや夜明け前の空を見上げる必要があるということでした。
宵とは透明度もシーイングも大気の匂いも違う星空の下で、まったく異なる星座を見上げることの新鮮さを、小学生の私は土星に導かれて学ぶことができたのです。
「そんなこと当たり前でしょ」と言われそうですが、指導者もガイドブックもなかった当時の私は、当たり前のことを試行錯誤しながら体得するしかありませんでした。
でも、それだけに全てが新鮮で、人に教えられるよりも遙かに生きた知識と経験を身につけることができたように思います。
今でも土星を見るたびに思い出します。
あの晩の大気の冷たさ、家族の笑顔、不思議なほど冴えた星空・・・。
