●詩「収蔵庫」
螺旋階段を降りたドアを開けると
古い廊下が続いている
今は使われていない旧館へ続く廊下には
いつしかうす闇が積もり始め
かつての展示室も
周辺からうす闇に溶け始めているらしい
廊下の突き当たり
収蔵庫の一隅に
古い液浸標本が残っている
くの字に身体を折り曲げた男の死体がいつからあるのか
誰も知らない
液面から露出した男の顔はすっかり崩れてしまっている
それにしても
これほど大きな標本瓶を
どこから見つけてきたのだろう
台帳にも載っていない標本瓶の表面には
『A-3』というラベルが貼ってある
館長だけがラベルの意味を知っているらしいのだが
誰一人
訊ねようとはしないのだ
ひとしきり死体を眺め
僕は収蔵庫を後にする
リノリウムの床に僕の靴音が響き
そう
年を経る毎に
この廊下は狭くなってゆくようだ
館長と親しかった父が
失踪してから10年になる
*昔に書いたちょっとホラーな詩などを・・・。
博物館が好きです。最近はどこの博物館もきれいになり、体験型の展示など楽しみながら学べるところが増えてきていますが、私の好きなのは古めかしく静まり返った古い博物館です。薄暗い石張りの床に靴音だけがこつこつ響くような。
国立科学博物館の旧館なんていい感じですね。子供の頃は、ミイラと干し首の展示を見に行くのが楽しみでした。
なので、古い博物館の今は使われていない収蔵庫なんてすごく魅力を感じます。
打ち棄てられ静かに変質していく収蔵品が語るそれぞれのストーリー。
遺棄されたものであるからこそ、そのどれもが厳かで犯しがたい物語であるような気がするのです。
