久々に童話など・・・。
だいぶ以前に書いた未発表作品で、娘やカミさんには好評です。
別におしいれでなくてもいいのですが、家におばけが住んでいるといいなあ、といつも思います。できれば怖くないおばけがいいですが、すごく怖いおばけがいる家というのもちょっといいですね。
「おばけなんて大きらい」という方、このおはなしに出てくるのはぜんぜん怖くないおばけです。どうか安心してお読み下さいませ。
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おしいれに、おばけが住んでいることに気づいたのは、ゆみちゃんが、このアパートに引っ越してきてすぐのことでした。家を建てかえるまでのあいだ住むことになった、ちょっと古いアパートです。
はじめは、ねずみかな、と思いました。でも、あんなに大きなねずみなんて、いるはずはありません。
さいしょに見かけたのは、おばけのおしりでした。真っ白でまあるくて、足のかわりにしっぽみたいなものがちょろりとくっついている柔らかそうなおしりです。
おしいれを開けるたび、おばけは大あわてで奥のほうにかくれてしまうので、見えるのはいつも、おばけのおしりばかり、なかなかぜんぶは見えません。
はじめのうち、おしり以外のところが見えたらちょっとこわいな、とゆみちゃんは思っていました。おしりは丸くてかわいらしいけど、もしかしたらすごくこわい顔をしているかもしれません。何といっても、おばけなのですから。
でも、毎日、風船みたいなおしりを見ているうち、だんだんとこわくなくなってきました。あわててかくれるようすが、とてもおかしかったし、どう見ても、悪いことをするようには思えなかったからです。
ある日、ゆみちゃんは、勇気を出して、おばけに話しかけてみました。
「おばけさん。かくれてばかりいないでたまには出てきてよ。私、お友だちになりたいの」
答えはありません。おしいれの奥のほうでごそごそいう音が聞こえるばかりです。
「ねえ、おばけさん。こわい顔をしているのが恥ずかしいの。私、そんなこと気にしないよ。私だって、こんな顔ができるんだから」
ゆみちゃんは、おしいれをのぞきこんで、思いきりこわい顔をしてみせました。
すると、
「ふきゅっ」
奥のほうからたしかにそんな声が聞こえました。
ゆみちゃんは、思わず笑ってしまいます。
「ごめんね。こわかった? 私、ほんとはこわい顔じゃないんだよ。よく見て」
こんどは、ふつうの顔でのぞきこみます。
ずっとすみの方に、ふたつの目が光っていました。
「そんな暗いところにいないで出ておいでよ。いっしょに遊ぼう」
おばけは少し近づいてきました。白いおしりが見えました。
「おしりだけじゃなくて、お顔も見たいな」
もう一度ゆみちゃんが言うと、おばけはしばらく、しっぽをぷるぷるさせていましたが、やがて恥ずかしそうに出てきました。
大きな目。ちっちゃな口。マシュマロみたいにふわふわの体。
「こんにちは」
ゆみちゃんがあいさつすると、おばけも頭を下げました。
「ひとりで住んでるの」
そうたずねると、おばけは、こっくりとうなずきました。
ゆみちゃんとおばけは、こうして友だちになったのです。
おばけは、だんだんとなれてきて、おしいれから出てくるようになりました。
でも、パパも、ママも、いっこうに気がつきません。どうやら、おとなには、おばけの姿が見えないらしいのです。
おばけは、しゃべることはできないみたいでした。小さなお口がありますし、いちどは「ふきゅっ」という声を聞いたこともありましたから、まるっきりしゃべれないわけではないのでしょうが、こっくりしたり、顔を振ったりして、ゆみちゃんがたずねることに答えるばかりです。
それでも、ふたりは、いつも楽しく遊びました。風船みたいに部屋の中を飛びまわるおばけと追いかけっこをするのも楽しかったし、真っ白でふわふわの体を見ているだけで、ゆみちゃんは幸せな気持ちになることができました。
そうして毎日、おばけと遊んでいるうち、家の建てかえが終わって、もういちど、お引越しをすることになりました。
ゆみちゃんは、おばけに聞いてみました。
「どうする? いっしょにお引越しする?」
おばけは、ゆみちゃんの顔を見上げて、こっくりとうなずきました。
「じゃ、ここに入っててね。顔を出しちゃだめよ」
こうして、小さなバスケットに入ったおばけは、ゆみちゃんといっしょにお引越しをすることになったのです。
「あら、ゆみちゃん。そのバスケット、何が入ってるの」
ママがたずねました。
「大切なもの」
ゆみちゃんは、そう言って、バスケットを抱きしめます。
お引越しが終わると、ゆみちゃんはピカピカのおしいれに向けて、バスケットのふたを開けました。
しばらく、きょろきょろしていたおばけでしたが、やがてするり、とおしいれの奥に入ってゆきました。
「これからも仲良くしようね」
ゆみちゃんがそう言うと、おしいれの隅っこの方から、ごそごそと小さな音がして、それから、
「きゅっ」
小さな声が、たしかに聞こえたようでした。