●随筆「樽見鉄道賛歌」
先般、連載した児童文学「赤い電車に乗って」を読まれた方何人かから「星も好きだけど鉄道も好き」というメッセージを頂戴しました。
そこで今日は、2002年に鉄道雑誌に書いた短いエッセイを再掲。
残念ながら、一昨年からこの列車は走らなくなってしまいましたが、懐旧と惜別の念をこめて掲載です。
以下、本文です。
「樽見鉄道賛歌」
今年も、樽見鉄道の客車列車に乗ってきた。
樽見鉄道では、終着の樽見駅からほど近い「薄墨桜」の開花にあわせ、花見客輸送のための客車列車を運行している。今年は桜の開花が早く、私が乗車した4月中旬には、すでに散ってしまった後だったが、それだけに車内は空いており、快適な旅を満喫できた。
根尾川の渓谷と絡み合い、目の中まで染まりそうな新緑の中を列車は走る。終着間近に響く懐かしいオルゴール、黒い肩掛けカバンを提げた車掌の姿、何よりもどっしりとした客車独特の揺れ具合。青いモケットにもたれて目を閉じれば、のびやかで心豊かな昔ながらの鉄道の旅へ心は確実に還ってゆく。
JRの幹線ですら希少価値となった客車列車が、ましてや単線の盲腸線を堂々と走行するシーンなど、樽見鉄道以外ではもはや見られないのではあるまいか。たまたま近くに住んでいるために、こうして気軽に乗りに来ることができるけれど、実のところ、僕はとんでもなく幸せな人間なのではないだろうか。車窓を過ぎてゆく水と緑の景色を眺めながらそんなことを思う。
今年はもう運行を終えてしまったが、客車の旅を楽しみたい方は、ぜひ来年、桜ダイヤの樽見鉄道を訪れてほしい。レールのジョイントを数えるにつれ、心が柔らかくなること請け合いである。
写真:雨の樽見駅に停車中の客車列車
