●論説「一面のみをとらえた学力低下論議」
子供の学力低下をめぐる論議が盛んである。学力テストの強化、土曜授業の復活、反復計算の徹底などの主張にはいずれもそれなりの根拠があり、学力の向上のためには、どれも重要であることは間違いない。ただ一方、これらの主張は教育の一面のみをとらえているようにも思われる。
人が生きてゆくのに必要なのは「知識」と「知恵」である。知識は長時間の繰り返しや暗記によって脳に刻みこまれる性格のものだ。授業時間延長や反復計算の意義はここにあり、最近論議される学力とは、こちらを指すことが多いように思われる。
対して、知識の上にさまざまな経験や人との交わりによって身についてゆくものが知恵だ。知識が基礎であるならば知恵は応用であり、最終的に教育が目指すところは、不安定化する世界を生き抜いてゆく力の源になる知恵を、いかにして子供たちに獲得させるかという点にある。
学力の向上は大切だ。がそれは、テストでいい点を取るためではなく、国際間の競争のためでもない。限りある資源と環境しか持たないこの小さな惑星の、唯一、知恵ある生物として、不安と混沌の現在を希望に満ちた未来へと切り開いてゆくためにこそ、必要とされるものなのだ。
その意味で、現在の学力低下に関する論議は、的はずれとは言わないまでも、本質を見失っているのではないかと思われる。
