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2007年03月27日

●随筆「銀河鉄道に乗って遥かな旅へ」

 世は不景気である。娑婆の風は寒いし、懐はもっと寒い。どこもカネがないはずなのに、なぜか街灯は増え続ける。天文家の心は冷え込む一方・・・なんて情けないことを考えているばかりでは浮かばれない。
 こんな時こそ旅にでも出て日頃の憂さを晴らしたいもの。「そんなこと言ったって、ほんとにカネもヒマもないんだよお」などと愚痴らずに、空想の旅に出かけてみよう。星の名前の列車に乗って・・・。

 手元に時刻表があれば、前の方の「特急運転系統図」なる色刷りのページを開いてみてほしい。全国の特急網が描かれている地図と併せ、特急列車の一覧表が印刷されているはずだ。五十音順に並んだ列車名を見てゆくと、天体の名前を関した列車がいくつかあることがおわかりいただけると思う。
 旧国鉄では夜行列車に天体の名前をつけることが慣行となっており、遠距離の旅行といえば夜行列車が当たり前だった頃には、星の名前がついた急行・特急列車が雁行して運転されていたものだが、新幹線網の発達により夜行列車が次々に削減されている現在では、「星の列車」は数を減らしてしまっているのが実情だ。
 それでも、天文ファンであれば、一度はそんな列車に乗って星三昧の旅がしてみたいもの。そんなわけで、東海地方から北海道までの汽車旅をコーディネートしてみた。
 旅は道連れという。ぜひ一緒にご乗車いただければありがたい。ツアーの名称は『遥かな夜空へ、星づくしの旅』。

☆ 第1日目 尾張星の宮~東京
 始発駅は、尾張星の宮である。「ワシ、長く岐阜に住んどるが、そんな駅、知らんぞ」と言うなかれ。名古屋の隣にある枇杷島駅は皆さん、ご存知と思う。この枇杷島と中央線の勝川を結んでいるのが東海交通事業城北線であり、そんな城北線の駅のひとつが尾張星の宮である。
 近代的な高架の駅だ。しばし待つうち、列車がやってくる。が、何と、停車した列車は僅か一両、しかもディーゼルカーである。いきなりミステリー列車じみてくるが、この城北線、もともと貨物線であったためにそれほど旅客需用があるわけでなく、たった一両のディーゼルカーが往復しているわけなのだ。
 ともあれ、乗りこむ。暮れなずむ名古屋の街を高架から見下ろすうち、一駅で枇杷島、東海道線に乗り換えてまた一駅で名古屋に着く。
 名古屋市科学館でプラネタリウムを鑑賞してから夕食を食べる。天体にちなんで天むす、なんていかがでしょうか・・・いきなりお粗末。
 夕食に続いて少しだけアルコール燃料を補給し、真夜中の名古屋駅ホームに立つ。
 やがて青い車両を連ねた寝台列車がしずしずと入線。サイドボードには“銀河”の文字。おお、まさしく星のブルートレイン!
 二段式のB寝台で浴衣に着替え、旅の気分が盛り上がったのも束の間、何だかヘンだな、と思う。時刻表を開いても、こんな名前の寝台特急は載っていない。まさにミステリートレイン、と思ったところに車掌さんのアナウンス。
『本日は、急行列車銀河号をご利用下さいましてありがとうございます』
 そう、“銀河”は、今や数少なくなった急行夜行寝台列車。東京と大阪を結び、ビジネス客の利用も多い名門列車なのである。急行とはいっても、ベッドは特急と変わりない。カンカンカン・・・とドップラー効果で遠ざかってゆく踏切の音に旅情をかきたてられるうち、いつしか夢の中へ。

☆ 第2日目 東京~室蘭
 東京着、6時42分。東京駅内の銭湯で朝湯を浴びてから、中央線で武蔵境へ。バスに15分揺られれば国立天文台。昔は象牙の塔だった国立天文台も、今や様変わりして構内の見学自由である。65センチ屈折、大子午環など、文化財級の望遠鏡が緑溢れる構内に点在している。ふたたび中央線で都心へ戻り、夜まで都内の望遠鏡ショップ巡り。国立科学博物館で天文の展示を見るのもいいかもしれない。
 夜行列車が出るには早すぎるような夕方4時過ぎ。上野駅13番線に長大なボディを横たえる札幌行き寝台特急、“カシオペア”に乗りこむ。“銀河”ではチープにB寝台を選んだが、“カシオペア”は、個室寝台しか連結されていない超豪華列車である。ホテルなみのベッド、シャワーまでついた大名個室の窓から暮れてゆく東京を眺め、フランス料理のフルコースに舌鼓を打つ。ここで妙齢の女性でもいてくれると最高なのだが、まあシブい一人旅もよかろうと、一人納得するボクなのであった。
 そうそう、せっかく寝台列車に乗ったのだから、部屋を暗くして、窓から夜空を見上げてほしい。繁華な東海道を走る“銀河”に対して、東北本線を走る“カシオペア”の夜空は暗い。北の空にカシオペア座を探してみるのも一興だ。

☆ 第3日目 室蘭~札幌
“カシオペア”は札幌ゆきだが、途中の室蘭で下りる。かつて鉄鋼業で栄えた町の常として、がらんとした街路に風だけが吹いている。
 寂しい町並みをしばらく歩くと地球岬。星の旅にふさわしい名前の岬だ。ただし、読み方は“チキウミサキ”である。見晴るかす水平線は遥かに遠く、その名のとおり地球の丸さを実感できそうな光景が広がる。
 室蘭から札幌に向う。乗りこむ列車は“スーパー北斗”。JR北海道自慢の最新式振り子車両は、在来線最高レベルの130kmで見渡す限りの原野を疾走する。
 札幌では、札幌市天文台や科学館を見学するのもいいだろうし、普通列車で1時間ほどの小樽には、プラネタリウムを備えた小樽市科学館がある。途中には、ほしみ、星置という駅があり、何やら曰く因縁がありそうではあるが、列車から見る限りでは変哲もない住宅地である。
 再び札幌に戻り、泊。

☆ 第4日目 札幌~陸別
 札幌から千歳線、石勝線を走る“とかち3号”の客となる。帯広から乗り換える列車は、ただの普通列車ではない。根室本線をしばらく走った列車は、池田から晴れて急行に変身する。その名も“銀河”。1日目に乗ったブルートレインと同じ愛称ではあるが、こちらは白地に星のペイントを散らしたおしゃれなボディだ。
 池田からぐいと北を向いて走り始める路線名は“ふるさと銀河線”という。もと国鉄池北線を引き継いだ第3セクターであり、星をブランドイメージとして売り出しているローカル線だ。途中駅には、この路線を応援する会の会員名を刻んだ星形のボードが設置してある。沿線には、低い丘と原野がひたすらに続く。松山千春の故郷である足寄を過ぎ、やがてあたりが開けてくると陸別。
 星の町として有名な陸別町のポイントは、何といっても口径100cm望遠鏡を備えた陸別天文台である。オーロラの見える町としても知られる他、日本一寒い町としても有名。今夜は、100cm望遠鏡で、“しばれる”夜空を見上げてみよう。

 まだまだ旅を続けたいところだが、紙数が尽きた。続きはまたの機会に。
 空想の旅なんてつまらないと思われるかもしれない。けれど、こうして頭の中で旅のイメージをふくらませていればこそ、いつか本当に旅立つ日の感動が一層大きなものになるはずだ。
 こんな原稿を書いているうち、久しぶりに旅に出たくてたまらなくなってきた。暖かくなったら、列車に飛び乗り、気ままな旅に出かけてみよう。それがたとえ小さな旅でも、失われていた感性が確実によみがえるはずだから。

(スターライト・パーティー岐阜会誌 2003年 vol21掲載)

*「ふるさと銀河線」は平成18年4月で廃線となりました。
*小樽市科学館は現在リニューアル中です。
*列車の時刻は原稿執筆当時のものです。

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