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2006年04月30日

●心の星空をおいかけて

ものごころついたころから、星を見ることが大好きだった。生まれも育ちも東京の私にとって、汚れた大気と強烈な街の明かりで星がよく見えない分、かえって憧れを誘われたのかもしれない。だから子供のころの「読書」といえば、天文学の解説書を読みあさることであり、その意味では学生が参考書を読むように、実用を目的に本をひもとく子供だった。
そんなある日、天文雑誌をめくっていると、一冊の本の紹介が目にとまった。「池谷・関彗星」の発見者として有名な彗星捜索家の関勉氏が、積年の夢だった新彗星を発見するまでの過程をつづった彗星発見記、「未知の星を求めて」である。
近所の書店に注文してから一ヶ月以上かかって入手したそれは、ペーパーバックの案外安っぽい本であったが、パラパラと読み進むうちに、私はぐいぐいと本の世界に引き込まれてしまった。戦前生まれの関氏の文体は、小学生が読むには難解な部分も多かったが、ドキュメンタリータッチで書かれたやや古風な文章が、超人的な努力の結果として多くの彗星を発見してきた圧倒的な事実と迫力に裏打ちされて、それまで単なる天文解説書しか読んだことのなかった私を虜にしてしまったのだった。
吐く息も凍る真冬の明け方、新しい星を求めて、やはり凍てついた望遠鏡にすがるように黎明の星空を探索する。当初は彗星発見という華やかな成果のみをひたすらに追いかけていた関氏が、10年、20年とただひとつの彗星すら発見できない無為の日々を見送るうちに、彗星発見という結果ではなく、夢を実現するために何もかもなげうち、ひたすらに憧れに向って全力投球するひたむきさこそが貴いということに気づいてゆく。そしてある秋の黎明、無欲の観測のうちに始めての発見がもたらされる。
それから時は流れ、ふとしたきっかけから私は、住み慣れた東京を離れ、ここ岐阜県の山奥にあるプラネタリウムと天文台の職員として勤務することになった。自然に囲まれた暮らしに憧れていたことももちろんだが、関氏の本を読んで以来温め続けてきた彗星発見の夢を、夜ごと満天の星空の広がるこの地で実現したかったことが、家族を連れて人口わずか450人の山村への移住を決意させた最大の理由である。
子供の頃に出会った一冊の本が、私を山紫水明の岐阜の地へと導いてくれたことに感謝を覚えつつ、今でもくじけそうになった時など、本棚からボロボロになったその本を取り出してページを繰る。そのたび、懐かしい紙とインクのにおいが、夢中で活字を追いかけたあのころのひたむきな憧れを鮮やかに呼び戻し、故郷を遠く離れたこの地で、ともすれば弱気になりがちな心を強く奮い立たせてくれる。そして、憧れ続けた星空を見続けてゆく勇気と力を、私に取り戻してくれるのだ。

(平成12年度岐阜県読書感想文コンクール優秀賞)

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